エリザベートと皇太子ルドルフ “ Lässt du mich im Stich ? ”

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エリザベートとルドルフは、2人とも自由な考えの持ち主で、似たもの親子でした。
それゆえ、2人ともハプスブルク家の古いしきたりや考えになじめず、孤立していきます。
そんなエリザベートとルドルフが、物語の中で使う共通の台詞がこちら。

“Lässt du mich im Stich?”
“君は私を見捨てるの?”

エリザベートがこの台詞を言ったのは、夫フランツ・ヨーゼフに対してです。
フランツが母ゾフィーの意見を優先させ、自分の味方になってくれず追い詰められた時でした。
また、ルドルフがこの台詞を言ったのは、母エリザベートに対してです。
困難な状況に陥いり、助けを求めたエリザベートに拒否された時でした。

「自分が頼りとしていた者に助けになってもらえなかった」という同じような状況におかれた親子が、その相手に同じ言葉を発する。
この2人は本当に似た者同士だったんだということが伝わってくるとともに、親子の運命と言いますか、性というのか….。
そのようなものも感じられて、ドキッとさせられます。
不幸は繰り返すということでしょうか。
ただ少し残念なのは、” 日本版エリザベート ” では、この台詞が違う表現に訳されていたことです。

エリザベート “あなたは私を見殺しにするのね”
ルドルフ   “ママは僕を見捨てるんだね”

個人的にはエリザベートとルドルフには同じ台詞を言ってほしいところです。
2人を取り巻く暗い運命と同時に、やはりこの親子はつながっているんだ、とも感じられるからです。

(記:ドイツ語講師 池嶌 千絵)


皇太子 ルドルフ – 2

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成人したルドルフはトートと再会します。
トートはルドルフが子供の頃、こんなことを言っていました。

Wenn du mich brauchst ,komme ich zu dir.(必要なときは来てあげる)
Ich bleibe dir nah.(そばにいるから)

トートはその通り、ルドルフが困難な状況になったときに現れました。
ルドルフは父・フランツヨーゼフと対立していました。保守的で伝統を重んじる父に対し、彼は自由主義に傾倒し、国を変えたいと思っていたのです。自分を殺して父に従っていくのか、それとも背いて革命を起こすのか。。しかし失敗すればルドルフは絶体絶命です。そんな時、トートは苦悩するルドルフのもとに現れ、そして革命を煽るのです。

トートとルドルフのそのやりとりの歌が、『Die Schatten werden länger 』です。

素晴らしい曲なので、この歌のファンも多いかと思います。
今日はこの歌のタイトルについて少し説明いたします。

die Schatten : 男性名詞(ここでは複数形)/影・闇の意
werden : 動詞/~になるの意
länger : lang 「長い」の意、比較級

初めの頃、この歌のタイトルは、『影はどんどん長くなる』でした。
ドイツ語からの訳は、まぁそういうことなのですが。。。
歌のタイトルとしては何ともしっくりきませんね。
せっかく格好よい曲なのに!どうなんでしょう!?などと思っていたら…
のちに以下のタイトルに変更されました。

『Die Schatten werden länger 』- 闇が広がる -

曲に対するイメージが、ずいぶんと変わりませんか?

(記:ドイツ語講師 池嶌 千絵)


皇太子 ルドルフ – 1

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今回はエリザベートのひとり息子、ルドルフについて少しお話しようと思います。
 
皇太子ルドルフは、その少年時代の教育を、皇太后ゾフィー(ルドルフにとっては祖母)にまかされていました。その頃母であるエリザベートは頻繁に旅行に出ていてウィーンにはあまりおらず、事実上ルドルフの養育を放棄していたからです。
ルドルフは軍人になるため、厳しい教育・訓練を受けていました。それは本当に過酷なものだったようで、時には鞭で打たれたり、冷水を浴びせられたりしたようです。そのため心も体も傷つけられたルドルフは、神経質で臆病な少年でした。さらには、母エリザベートにも会えないことから、とても愛情に飢えていました。

ミュージカル・エリザベートの中でも、ルドルフはひ弱でさびしがり屋の少年として描かれています。真っ暗で寒い部屋でひとり、自分の気持ちを歌います。

Mama, ich möchte immer bei dir sein
Doch fährst du fort, nimmst du mich nicht mit
Und wenn du da bist, schließt du dich ein
Warum läßt du mich allein

ママ、僕はいつもママのそばにいたいのに
いつも僕をおいて旅に出てしまうんだね
家にいるときだって部屋に閉じこもってばかり
どうしていつも僕をひとりぼっちにするの?

トート(死)はそんなルドルフにも近づきます。
いったい彼に何をしようというのでしょう…。

(記:ドイツ語講師 池嶌 千絵)


Zwei Boote in der Nacht …夜のボート

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前回、前々回に続いて、ミュージカル・エリザベートについてお話します。

なぜ人の気持ちはすれ違ってしまうのでしょう。
愛し合っていたはずなのに、理解しあっていたはずなのに、いつの間にか取り返しがつかなくなっている。
どこかでやり直す機会はあったはずなのですが、、。しかしそれも多くは、後から考えれば、のことです。
エリザベートと夫フランツ・ヨーゼフの関係もそうでした。

エリザベートが暗殺された1898年の夏、エリザベートとフランツは久しぶりに会い、お互いの気持ちを語り合います。

長年すれ違っていたのに、悲しいことにこの思いだけは二人一緒でした。

 

Elizabeth&Franz: Könntest du einmal nur durch meine Augen sehen,
dann würdest du mich nicht länger missverstehen…
Wir sind wie zwei Boote in der Nacht,

Jedes hat sein eigenes Ziel und seine eigene Fracht.
Wir begegnen uns auf dem Merr,
und oft fällt der Abschied uns schwer,

Warum wird uns das Glück so schwer gemacht.

一度でいいから私の目を通してみてくれたなら
誤解し合うこともなかったのに。
私たちは夜の二隻のボートのようなもの
それぞれが自分のゴールと心の負担を持つ
私たちは海の上で出会い、別れがつらいこともある。
どうして幸運は私たちをこんなに困難にしたんだろう。

様々な出来事を伴う時間の経過は、お互いに対する気持ちを変化させました。
でもそれは、エリザベート自身が変わることがなかったからでしょう。

とても切なくなる一場面です。

(記:ドイツ語講師 池嶌 千絵)


続エリザベート – Elisabeth

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前回に続いて、ミュージカル・エリザベートについてお話します。
この作品の中で、重要な役割を担うもう一人の登場人物、それが『トート』です。ドイツ語では ”der Tod”、死神を意味します。(日本版では『黄泉の帝王』となっています)その名の通り、物語を通して、エリザベートを死の世界へ誘惑しようとするのです。

エリザベートの宮廷での生活は、夫フランツ・ヨーゼフとの関係も含め、絶望の連続でした。
何も自分で決められず、自由にならず、姑ゾフィーはエリザベートのあら探しばかり。夫はそんなエリザベートの味方になってくれない。。。彼女が、そんな状態から逃げ出したい!死んでしまった方がまし!と思う時、トートは彼女のもとに現れ、死の世界へと誘惑するのです。エリザベートは死への憧れを持っていましたし、トートもエリザベートを愛していた。でも彼女は、誘惑のたびにトートを退けました。生への希望も忘れてなかったからです。

しかし、最後にエリザベートはトートに、つまり死に自分を委ねてしまいます(実際にはエリザベートは暗殺されます)。そして、二人は結ばれるのです。

そこで二人が歌う内容を抜粋して見てみましょう。

Tod:Ich hab mich so nach dir gesehnt. Lass mich nicht warten..
私は君をずっと想ってきた。だからもうこれ以上待たせないでほしい

Elisabeth: Lass mich befreit sein und geborgen.
Lösch die Erinnerung in mir aus . Gib meiner Seele ein Zuhaus !
私を自由にして、そして守ってほしい

私の過去の思い出を消し去って、心に安らぎを与えてほしい二人はお互いを求め、心はひとつになったように見えます。でもすべてがひとつになったわ けではありませんでした。

トートは『僕は君だけのもの』と歌いますが、エリザベートは『私は私だけのもの』と歌い、トートの腕の中に落ちます。エリザベートは最後までエリザベートであり、誰のものにもなりませんでした。そんな彼女を、私はとても魅力的に思いますが、トートはどう思ったのでしょうか?

(記:ドイツ語講師 池嶌 千絵)


エリザベート – Elisabeth

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“Sissi”の愛称で知られているオーストリア=ハンガリー帝国皇后エリザベート。この”Sissi”と彼女をとりまく人々のお話は、ウィーンミュージカルの代表的作品”エリザベート”として有名で、日本でも何度も上演されているので、ご存知の方も多いでしょう。この作品の曲は、どれもとても素晴らしく、このミュージカルを見てドイツ語を始めた方もいるほどです。

エリザベートは、自由を愛した女性でした。そのため嫁いだ王家のしきたりに縛られることを嫌い、姑皇太后ゾフィーとことごとくぶつかります。また、夫の皇帝フランツ・ジョーゼフはそんなエリザベートを、従わせようとします。

そんな中でエリザベートが歌う、”Ich gehör nur mir”。日本では『私だけに』と訳されていますが、厳密には『私は私だけのもの』という意味です。
この曲はあまりのも有名で、日本語訳もでているので、ここでは個人的に大好きな歌詞の一部を紹介しようと思います。

Ich wachse und lerne und bleibe doch wie ich bin
私は成長するし、学びもする。でも私は私のままであり続ける。

人は成長し、様々な知識を得ていくと、考え方、好みなどが変化することがあります。そして環境が変わると、本来の自分ではない形でその環境に合わせる、または違和感なくなじむ。言い換えるとその色に染まっていく。さらにポジティブにみるならば、そこから新たな自分を発見するなんてことがあります。

エリザベートは自身の内外における色々な変化の中でも、エリザベートのままでいることを望みました。自分は変わらないし、何物にも変えられない、と。”Ich gehör nur mir”にはそんな 彼女の気持ちがあふれています。そしてこの短いなんでもないような一文だからこそ、余計にエリザベートの深い思いを感じるのです。ミュージカル”エリザベート”を見たとき、私は自分の良き理解者に出会ったように感じまし た。そしてこの曲を聞くたびに思います。

Ich gehör auch nur mir…『私も私だけのもの…』

(記:ドイツ語講師 池嶌 千絵)


永遠… – Ewigkeit…

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Ewigkeit(永遠)とはどんなものでしょうか。
人によってとらえ方は色々あると思います。
私たち人間は、時に永遠の命を望んでみたり、永遠の愛を誓ってみたりします。
英語で ”for ever”(独;für immer)と表現すると、何やら美しくロマンチックにも響きます。それは、『永遠の~』の『~』の部分が、失いたくない素敵なものだからでしょう。
前回に続いて、ウィーンミュージカル ”Tanz der Vampire”(ダンス・ オブ・ヴァンパイア)から、Vampire (ヴァンパイア)たちにとっての Ewigkeit(永遠)がどんなものなのか見てみましょう。

Ewigkeit
Ewigkeit ist Langweile auf Dauer
Ein trostloser Kreislauf , kein Anfang , kein Schluss.
Denn stets wiedetholt sich dasselbe von vorne.
kein Jubel, kein Entsetzen,
nur die öde , blöde Ewigkeit

永遠
永遠とはずっと続く退屈
はじめも終わりもなく、絶望的な循環をする
常にはじめから同じことを繰り返す
喜びも恐怖もない、ただつまらなくばかげているもの、それが永遠である

当たり前のことですが、素敵な毎日を送っていると、『それがずっと続けば』と望み、そうでなければ強制終了でもしたい気持ちになります。
昼間は墓場で眠り、夜になると目覚めて人間の血を求めさまよう Vampire たち。
ミュージカルの中でも、彼らは生け贄となる人間を招待して舞踏会を催したり、踊ったり、それなりに楽しい生活を送っている様子。でもこの歌を聞くかぎり、Vampire たちにとっての永遠はそんなにいいものではないようです。

永遠に生きることを願うよりも、永遠に…と望む、価値のある充実した『今』を生きていきたいなあ。
Vampire たちの歌声を聞いて、そう思ったのでした。

(記:ドイツ語講師 池嶌 千絵)


ヴァンパイア – Vampire

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私の愛する”Vampire” (ヴァンパイア)(独;Vampir)とは、ご存知の通り、吸血鬼のことです。
夜、墓場から出てきて人間の生き血を吸い、夜が明けると再び墓場に戻っていく、伝説上の 生き物(?)です。
私達とヴァンパイア、何の関係もありませんし、第一ヴァンパイアに遭遇したこともありません。
でもそのヴァンパイアから学んだこと、感じたことを書いてみたいと思います。

ミュージカルといえば、まずブロードウェイを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、ウィーンにも素晴らしいミュージカル作品があり、日本でも上演されています。そのウィーンミュージカル作品の1つが、”Tanz der Vampire” (ダンス・ オブ・ヴァンパイア)。ウィーン初演1997年、日本初演2006年、ロマン・ポランスキーの映画を原作につくられた作品です。

物語は、アブロンシウス教授とその助手アルフレードが、ヴァンパイアの調査のためにトランシルバニアを訪れるところから始まります。そこで出会った村人とのやり取り、ヴァンパイアに連れ去られた村の娘サラの救出劇、ヴァンパイアとの駆け引きなど、とても楽しい物語なのですが、実は奥深く、人間として考えさせられることが多く含まれています。

今回は登場ヴァンパイアの一人、”Graf von Krolog”(クロロック伯爵)が歌う”unstillbare Gier”(抑えがたい欲望)の 一部を紹介します。このクロロック伯爵、ヴァンパイアのくせにとても哲学的で、なかなか人間のことをよく理解しています。ただ生き血を吸うために人間を襲う、そんな単純な存在ではなく、色々なことを考え、悩み、そして人間に対して様々な指摘や警告をしてくれているのです。

Manche glauben an Kunst und Wissenschaft, an Liebe an Heldentum.

Jeder glaubt, dass alles einmal besser wird,

drum nimmt er das Leid in Kauf.
Viele glauben an Götter verschiedenster Art, an Wunder und Zeichen,

an Himmel und Hölle, an Sünde und Tugend und an Bibel und Brevier.

Doch die wahre Macht, die uns regiert,ist die schändliche,unendliche,

verzehrende,zerstörende, und ewig unstillbare Gier

人間というのは芸術や学問、愛や英雄的な行為を信じるものである。
また多くの人は、様々な神、奇跡、天国や地獄、罪や徳、そして聖書や祈りを信じて生きている。しかし我々を支配している本当の力、それは無限で破壊的で、恥ずべき永遠に抑えられない欲望なのだ。

そして最後に、クロロック伯爵様は私たちにこんな予言を残します。

Bevor noch das nächste Jahrtausend beginnt, ist der einziger Gott, dem

jeder dient,,, die unstillbare Gier

次の千年間が始まるまで我々が仕える唯一の神、それは欲望なのである。

”人間の血を吸いたい!”という欲望のまま、人間を襲う君に言われたくない…という気はしますが、ポジティブにもネガティブにも同意見の方も多いのでは???
個人的には、やりたい!と思ったことはやらないと気が済まないほうなので、少々耳の痛いメッセージです。
が、しかしそれが生きる活力になるのであれば、またそれもいいのかと、自分を正当化して過ごしている今日この頃です。

(記:ドイツ語講師 池嶌 千絵)